子連れLSE留学記(英国大学院留学)

2020年から子連れでLSEに留学している筆者の記録

59 LSE/MPA2年目・LT振り返り③(PP4E5)

PP4E5 Innovations in the governance of Public Services Delivery

 

2年目LTで唯一のSPPのコースでMPPの学生とMPAの1年目が多かった印象。以前の記事で書いた通り、当初は履修予定にはなかった。というのも、講義名の最初のイノベーションという単語でてっきり科学技術をどうガバナンスに組み込むのかという話だと思い込んでいたからだ。

しかし、扱うメインの内容は、講義名から言えば、むしろ後半の公共サービスの提供の問題。イギリスでは1980年代のサッチャー政権、日本では2000年代の小泉政権のときに持て囃されていた政府サービスの市場化、どのようなサービスは市場化すべきでどのようなサービスは市場化すべきでないのか、あるいは市場化に替わる効率的なサービス提供のあり方についてどのようなものがあるのか、というのが中心的なテーマだった。

 

前半は、CoaseやWilliamsonのモデルから、政府にとってmake(直接提供)とbuy(市場化)のどちらがいいかを不確実性・サービスの固有性・情報・取引頻度・関係性(交換に馴染むか)といった観点で考えるというモデルから、例えば、医療は直接提供の方がいいとか、ごみ収集は市場化の方がいいといった話をした。このテーマの関連ではスペースシャトル、チャレンジャー号の事故に関するドキュメンタリー動画を事前に見て、NASAはどうするべきだったのかといった議論をしたりした。

そこから、具体的なテーマとして、教育・医療が取り上げられて、例えば、LSEの教授であるニコラス・バーが2000年代に提案した大学教育に関する学生ローン政策が経済学的にどう優れていて、しかし、実際の政策では何が問題となったのか、についてプレゼンを行った。医療に関しては、特に多く時間が割かれて、いわゆるベバリッジ型とビスマルク型といった提供体制改革だけでなく、アメリカとカナダの比較から提供体制よりも保険体制の方が医療費に与える影響が大きいという示唆が紹介されたり、興味深かった。

終盤はヒエラルキー(make)でもマーケット(buy)でもない第3の手法としてのネットワークについて紹介があったが、正直、このあたりのトピックは十分に理解できたとは言えない。

 

評価はターム中のグループプレゼン(20%)、ターム中の2000語以内のレポート(30%)、そして最後に3000語のエッセイ(50%)。レポートは任意の国の大臣に政策を提案することを目的として、主な提案内容を紹介するパート1とそれに関する想定される質問・反対意見に対応するパート2の2部構成にすることが求められ、私は日本の医療提供体制改革に関して書いた。

エッセイは、reading weekの間にプランを提出してそのコメントを踏まえて書くという形だったが、何度も強調されたのは、叙述的ではなく分析的であること、基本的に2つ以上のことを比較して、なぜこちらはうまくいったのにこちらはそうではなかったのか、という形式にするようにということだった。個人的に、エッセイの方は、どういう軸で比較するかぎりぎりまでうまく整理できず困ったが、最終的には日本の介護保険制度導入時に行われた市場原理の導入とイングランドで1990年代に行われた介護の市場原理導入、方や市場規模を拡大することに成功したがコスト管理に苦労しており、方やコスト管理は成功しているが市場規模が小さいことの理由を分析することにした。

このエッセイだけ、まだフィードバックが来ていないので、ちょっとドキドキしている。

 

評価対象の課題も多く、また教授もなかなか厳しい(ゼミの間にいろんな学生を指名して発言させるのはいいのだが、的外れなことを言っていると発言を途中で遮って他の学生を指名するなど)が、内容的には非常に面白く、個人的には履修を強く勧めたい科目の一つとなった。