子連れLSE留学記(英国大学院留学)

2020年から子連れでLSEに留学している筆者の記録

はじめに

機会をいただき、所属組織からの派遣という形で2020年9月からの約2年間、英国の大学院に留学させていただくことになった。
進学先はLSE(The London School of Economics and Political Science)のMPA(Master of Public Administration)という英国では珍しい2年間のコースで、公共経営修士の取得を目指して勉強する。

 

このブログを開設した主な動機は2つで、1つは、留学中の時々の自分の感情・思考を整理し記録することで、自分の現状を相対的に把握するとともに、ここで得た学びを後日振り返られるようにすることだ。

ただ、それだけであれば、公開のブログという形をとる必要は全くないわけだが、私自身、留学を志してから実際に渡英するまでの間(そして渡英後も)、多くの諸先輩のブログに大いに助けられたこともあり、私の拙い文書でもこれから留学を考えている方々の一助になればと思い、この形を取ることにした。

 

また、ブログタイトルにも入れたが、パートナーと未就学児2人を連れて渡英している。旅行を除けば、初めての海外生活、それも子どもも連れてとなると、いろいろ苦労もあるだろうが、生活者として様々な気づきも得られるだろうから、楽しみでもある。

可能な限り、大学院での勉強だけでなく、ロンドンでの子育てについても記録していきたい。

 

留学を機にブログを開設にしようと思いつつ、1か月以上かかった有様だが、なるべく定期的に更新したいと思う。

 

【更新】2021/4/22

ありがたいことに一定数ブログを読んでいただいている方がいらっしゃり、個別に質問をしたいとのコメントもちらほらいただくので、問い合わせフォームを作成してみた。

 

63 卒業式

7月21日に卒業式を迎えた。

卒業式のための準備は実は今年の2月頃から始まっていた。卒業式に参加するための予約、家族などゲストを招待したい場合はさらにゲスト分の席の予約、(有料の)ガウンのレンタルの手配等々。

ゲストチケットは学生1人に対して2席分までしか認められてなく、Whatsappグループでは6月下旬ごろからチケット余ってたら誰か譲ってというやりとりが活発に行われていた。私は、パートナーと子ども2人も来てもらいたいと思っていたが、末子はパートナーの膝に座ってもらって、スタッフに何か言われたとしても何とか交渉してもらおうと構えていた。しかし、いざ当日自分とゲスト用のチケットを受け取りに行った際、チケット余ってたら1枚追加してとスタッフに頼むと、束になっているチケットから普通に1枚追加してもらえた。こんなに余っているなら、最初から3枚売ってくれればいいのに…と正直感じた。

 

卒業式は午後5時からだったが、私は2時間ほど前にキャンパスに行き、上述のチケットの受け取り、レンタルガウンの受け取り、卒業証書の受け取りを終わらせ、キャンパス内をうろうろしながら、コースメイトたちと数か月ぶりの再会を楽しんだ。そして、定刻30分前から会場入り。会場はLSEのすぐ隣にある劇場で、かねてよりなんでこんなところに劇場があるんだろうと思っていたが、どうやらLSEが式典用に持っているものらしい。学長をはじめとした教授陣が入場し、学長の挨拶から開始。ちなみに現在のLSEの学長は女性だ。卒業式は最も幸せな式典、なぜなら結婚式はその後もずっと幸せか分からないし、誕生日は1年年を取ったことの証だからと言った語り口から挨拶が始まった。タームごとに学部長から送られてくるメールもしかりだが、毎度感心するのは、こういった挨拶が日本のよくある定型文の組み合わせという感じではなく、挨拶する人の人柄が滲んでいるような本当によく考えられた挨拶であるということ。

そして、その後は各学部長が学長に卒業者を推薦するという形式で、卒業生一人ひとりが登壇し、学部長に名前を呼ばれたら檀上中央の学部長のところまで歩いていき、卒業証書用の丸筒を受け取る。学部長が声を枯らさず、そして多国籍ゆえに様々な発音が混ざった卒業生全員の名前を淀みなく読み上げ切ったのにはちょっと感動した。SPPはMPAだけでなくMPPも含まれるので、卒業生は優に200名近くいる。事前にどのくらい準備の時間をかけたのだろうか。大学の卒業式は、代表者1名か2名だけが名前を呼ばれて受け取っただけだったので、あまり卒業の実感がなかったが、檀上に上がって丸筒を受け取ったとき、ついに卒業したのだとしみじみと感じた。成績優秀者は名前を読み上げられる前に、その旨紹介され、他の卒業生やゲストからひときわ大きな歓声をもらっていた。私は箸にも棒にも引っかからなかったが、私の前後で成績優秀の紹介をされた学生がいなかったのがせめてもの救い。

 

その後は、レセプションがあり、軽食と飲み物が用意されていたが、子どもたちが食べられるようなものがあまりなく、夕飯の時間もとっくに過ぎていたので、少しだけ顔を出して、早々に退散。帰り道で長子に、来てくれてありがとうと声をかけたが、彼らにとっては遅い時間の退屈な式典に来てくれたことだけでなく、そもそも、ロンドンについて来てくれたことが本当にありがたかった。

62 LSE・MPA(キャップストーンプロジェクト③)

キャップストーンプロジェクトについての振り返り。内容面について。

 

私たちのグループのクライアントはDfE、英国教育省で、テーマは、2030年に向けて特に低所得者世帯に対する幼児教育をどのように発展させるべきか、というものであった。

これは私自身、ロンドンで子どもを保育園に通わせて痛感していたが、とにかく、英国の保育料は高い。週5フルタイムで預けたら家賃と同じぐらいの保育料がかかる。3歳以上になれば、一律で週15時間年38週間まで無料、働いていれば追加で週15時間年38週間無料となるので多少ましだが、3歳未満の場合は原則補助がなく、低所得者世帯に限り週15時間年38週間まで無料となっている。補助があるとは言え、週15時間に過ぎないので、低スキル・低所得層ほど働いて子どもを保育園に通園させるより、家庭保育をした方が経済的ということになる。

 

クライアントが英国の政府機関ということで、苦労した点が2つ。1つはとにかくレスポンスが遅い。忙しいのは分かるが、こういったデータを提供してもらえるか、と聞いても反応がないこともしばしば。他のグループではクラアントとのミーティングが毎週のようにあってすごく大変という嘆きを聞いたので、結局、ないものねだりのところはあるが、クライアントからのコミットメントが浅くても深くても苦労するという印象だ。結局データがなかなかもらえないし、督促しても時間を空費するだけになりそうだったので、急遽、当初は予定していなかった保育事業者へのインタビューなどを実施することになった。このあたりはスーパーバイザー(指導教官)と相談しながら進めたが、しかし、どうも行き当たりばったり感が否めず、とりあえずインタビューしてみたけど、これどう生かすの?という空気がグループ内に生まれたりしていた。

 

2点目は、既存の政府資料をどのように自分たちの報告書に織り込むのか、グループ内でなかなか合意できなかった点だ。2030年に向けて、というテーマなので、現状分析をした上で将来の傾向分析をして提言をするという流れまでは全員が合意できたのだが、問題はどこに重点を置くか。私を含め何人かは、現状分析を重視する立場。私は、将来の傾向なんて予測するのにも限界があるのだから、保育だけでなくuniversal credit(日本でいう生活保護)など低所得者世帯支援全体の現状をしっかり整理して、それがどう機能してどう機能していないのかをまずは分析するべきと主張したのだが、残りのメンバーは将来分析を重視していた。曰く、統計などから分かる現状はクライアントは認識しているはずで、それを報告書の中心に置いても新鮮味がない、ただでさえテーマが広範にわたるのに、保育以外の部分に手を伸ばすべきではない云々。結局、保育以外の低所得者支援は付録という形で末尾に簡単に現状を触れるだけになったが、成績とともに受け取ったフィードバックでは、巻末にあったuniversal creditなどは本文で中心に置かれるべきだったとコメントされ、歯痒い思いをした。英語で相手が何を言っているのかを聞き、自分が何をしたいのかを伝えることは最低限のレベルでなんとかなったが、その一歩先の自分の主張を補強して相手を説得するというのがほとんどできなかったあたりが、自分の語学力の限界であり、反省点だ。

 

他の科目でもそうだが、フィードバックでここが弱い、もっとこうするべきだったという指摘は的確で耳が痛く、もっとここをこうすればよかったなと言うことばかり感じたが、それでも評価はMeritだったので、良しとする。

61 LSE・MPA(キャップストーンプロジェクト②)

キャップストーンプロジェクトについての振り返り。まずは進め方・段取りについて。

 

我々のグループは、基本的には毎週2回、週の前半にやるべきこととその分担について、週の後半に各自の成果について話し合い、2回のうち1回は対面で1回はオンラインで行うことにしていた。しかし、実際は、急遽予定が入ってキャンパスに行けなくなったとか、濃厚接触になったとかが頻発し、加えて、1人がオンラインとなると他の4人が対面だとかえってコミュニケーションがとりづらく、必然的に全員オンラインということになり、対面で会う機会はそう多くなかった。

このコミュニケーションが対面なのかオンラインなのかは他のグループも抱えていた問題のようで、「メンバーで打ち合わせの日時を決めたのに、1人がキャンパスに現れなくて連絡を取ったら、てっきりオンラインだと思ってたと言われた。パンデミック前なら会うと言えば対面が基本でこんなこと起こらなかったのに。」という嘆きを他のグループの友人から聞いた。

 

また、これは当然予期しておくべき問題だったが、私も含め、学期中は他の科目の予復習が忙しく作業が全然予定どおりに進まない。成果報告のときに、「今週は他の授業でプレゼンの準備があってできなかった、今週末にやる」というのはよく言ったし、よく聞いた。また、作業分担を完全に個人単位にした結果、重複する作業が発生したり、詰まったときに1人で抱え込んで時間を空費したりということも起こっていて、もう少し効率的にできたんじゃないかと思う部分もあった。コミュニコーションに不安が残っていたので提案できなかったが、単に作業報告をするだけでなく、作業内容についてディスカッションをする時間があればよかったかもしれない。

 

さらに実感したのが時間の使い方に対するそれぞれの価値観の違いだ。例えば、私の場合は子どもの世話があるので、朝は基本的に打ち合わせなどができないが、夜子どもが寝た後なら、比較的自由に使えた。一方、朝早いのはいいけど、夜は予定があるというメンバーもいて、定例の打ち合わせ以外の時間を合わせるのがかなり難しかった。決定的だったのは、年末年始の過ごし方だ。クリスマスホリデーの間は、他の科目の授業がないから、進捗が遅れていたキャップストーンプロジェクトの作業を一気に進めるチャンスだったのだが、メンバーの1人が12月23日以降はホリデーで年内はもう打ち合わせも作業もしない、年始は1月3日からでもOKと宣言し、私と他の何人かは1月中旬に試験があるから年明けは試験勉強に集中したいと主張した結果、年末年始の3週間近くは作業がほとんどストップしていた。振り返れば、これが本当にもったいなかった。

 

我々のグループは、ミーティングのセッティングやそこでの司会進行などリーダー的ポジションの人を1人に決めず、2人ずつ交代制という形式を採用していた。全員が同じようにグループにコミットするという意味ではよかったが、最後のところでまとめていくのは誰か一人、明確なリーダーが引っ張っていかないと厳しいなと感じる局面も多かった。これが仕事なら明確な意思決定における序列があるが、学生同士というフラットなグループでの立ち回り、動かし方というのも久しく経験していなかったので、英語を使う難しさとは別の難しさを感じた。終盤辺りになると、学部卒後すぐにMPAに来た若い2人と社会人経験がある2人になんとなくグループが二分されていき、私はその間をうろうろしていた。

 

と振り返って書いていくと、もっとこうすればよかったということが思い出されて、ネガティブな印象を与えているかもしれないが、総じて悪くはなかったし、いい経験だったと思っている。