子連れLSE留学記(英国大学院留学)

2020年から子連れでLSEに留学している筆者の記録

17 MT振り返り②(Econometrics)

統計学計量経済学?正式名称はPP455 Quantitative Approaches and Policy Analysis。

 

トピックは、最小二乗法・線形式の回帰分析(単回帰・重回帰)・非線形式(指数関数式・log)の回帰分析・ダミー変数・ロジットモデル・回帰分析の評価(内部妥当性・外部妥当性)・パネルデータといったあたり。ミクロ経済学と同様、こちらもおそらく計量経済学の基本中の基本なのだろう。そして、必修科目だが学部で既に履修済みであれば大学側と相談の上、履修を免除される扱いのようだ。この点も経済学と同様。

 

授業の基本的な流れもほとんど同じで、Zoomを使ったオンライン形式で、ライブの授業とQ&Aセッションをそれぞれ2時間と1時間(いずれも録画され後日HPにアップされる)、それを受けた課題をグループで解いて、各自提出、翌週のゼミ(キャンパスでの対面・1時間)で課題の解説、その後、さらにcollective office hoursが1時間、こちらはZoomを使ったオンライン形式で行われる。

これまでにも書いてきたが、課題はStataという統計分析のソフトウェアが学期前に配布されており、課題ごとに問題とデータセットがHPに掲載されるので、Stataで分析して分析結果を解釈するというものだが、Stataのコマンド探しに夢中になって分析結果の解釈はなおざりになりがちだった(講師陣はよく"Let's play with Stata"といっていたが、実際のところは、Stataに遊ばれているという表現の方がしっくりくる状況だった)。

 

経済学と圧倒的に違ったのは、日本語で補おうと日本語のサイトを見ると余計に分からなくなるということだった。例えば、"heteroskedasticity"という初見・かつ頻出の単語を調べて日本語訳の「不均一分散」にたどりついても、この言葉だけでは「?」という感じで、そのまま少し調べると大量の計算式に遭遇するというありさまで、正直、無理に日本語で理解しようとするより、英語のまま理解を試みた方がいいかなという感じだった。

授業は基本的に講師のスライドに沿って行われて、教科書の類はほとんど使わなかったが、必読書として指定されていた"James H. Stock, Mark W. Watson; Introduction to Econometrics"の該当ページを読むとかなり理解が深まる気がした(最初は読むのも一苦労という感じだったが)。もし、統計学計量経済学を独学で学びたいという人がいて、英語が苦にならないなら、このテキストはお薦めできる。

 

学期末に提出を求められたPolicy Memoは、経済学と同じように実用性を意識したもので、米国MBA卒業生の給料に関するジェンダーギャップを研究した論文を読んで、同僚に報告するために、その要約・問題点・あなたの国での適用について、専門用語を使わずにA4で2枚以内にまとめろというもの。こちらは既に評価が返ってきていて、必ずしも満足できるものではなかったが、Distinction/Merit/Pass/(Fail)の3段階(4段階)のLSEの成績で2番目だったので、まぁよしとしよう。

16 MT振り返り①(Economics)

しばらく放置してしまい、今更感が否めないが、MTの振り返りをすると自分で言っていたので、初志貫徹しようと思う。

 

まずは、経済学。正式名称は、PP440 Micro and Macro Economics (for Public Policy)。クラスメイト達と話題にするときは、大概みんなPP440と言う。MTではミクロ経済学を扱った。

 

トピックは、市場・市場への介入・消費者行動・企業行動・市場の失敗・外部性・公共財・不完全情報とミクロ経済学のおそらく基本中の基本。以前にも書いたと思うが、必修科目ではあるが、事前に試験を受けていれば履修が免除されるという扱いなので、日本でも経済学部を卒業していれば、既に学んでいるような内容だと思う。

 

授業の基本的な流れは、ライブの授業を2時間、ライブのQ&Aセッションを1時間(いずれも録画されて後日HPにアップされる)、それを受けた課題をグループで解いて、各自が提出、翌週のゼミ(1時間)で課題の解説をするというもの。さらに、ゼミの解説だけでは不十分な人向けにHelp sessionというcollective office hoursも1時間設けられていた。ゼミ以外は全てZoomを使ったオンラインで実施。

課題は計算で価格や数量を求めるというものが多く、たまにBBCのビデオを見て、この動画で出てくる外部性について説明せよという記述を求められることがあるという感じだった。課題をグループで解くのは楽しかったが、提出した課題について個別に採点されるわけでもなく、とりあえず出せばOKという雰囲気だったのは若干残念だった(みんなまじめに解いていたけど)。

 

私にとって決して簡単すぎるということはなかったが、よく分からないなと思ったものは日本語で補えたので比較的負担が少なかった。例えば、externalityってなんだ?外部性のことか、googleでミクロ経済・外部性で検索、〇〇大学の〇〇教授の授業資料が公開されているので軽く目を通す、という感じ。

留学に来ていて日本語に頼ることには若干の躊躇いはあったが、「英語を学ぶ」ことが大事なのではなく、「英語で何を学ぶか」が大事だからと割とすぐに割り切った。

 

 

学期末には、Policy Memoの提出が求められたが、問いは、CO2削減のために環境税排出権取引がどのように有効か環境大臣に対してA4で2枚以内で報告せよ、というかなり実務的なものだったのが、印象的だった。フォントサイズ・行間の指定がされており、3枚目以降の記載は一切評価しないということで、字数制限がかなり厳しく、私も含めクラスメイト達は何を書くか以上にどう2枚に収めるかということにかなり苦労していた。なお、採点結果はまだ返ってこないが、先日のゼミで解説だけが行われ、あー、という感じだった。

 

15 2021年

年が明けた。

日本では、除夜の鐘がどこからか聞こえてくるだけの静かな中で日付が変わっていたが、こちらでは、日付変更と同時に近所の複数の場所から花火があがり、パーティーでも開いていたのか隣からは叫び声が聞こえてきてとずいぶんと違った雰囲気だった(今年はさすがになかったが、都心部カウントダウンイベントを見学していれば、さらにもっと騒がしかっただろう)。

 

そして年明けのお祝いムードも特にないまま、先日、1月6日から2月中旬までイングランドでは3回目となるロックダウンを行うと発表された。

渡英した9月末からを振り返ってみると、11月5日から12月2日までロックダウンが行われ、解除されたあとも、12月16日からTier3、さらに12月20日からTier4と12月中旬から実質的にロックダウンに近い状態だったので、(一定の制限はあったものの)美術館・博物館などで普通に観光できたのは、10月1か月間と12月の2週間ほどだけということになる(そして、その機会はほとんど活かせなかった)。

昨年は、元来、出不精だし、遊びまわる余裕もないから、ロックダウンだろうがなんだろうがあんまり生活に影響はないなと思っていたが、今回のロックダウン宣言を聞き、思ったよりもショックを受けたことに自分でも驚いた。日本とは比べ物にならない感染者数(5万人/日)を考えれば仕方がないし、実際、大学の授業が始まれば観光に行くような余裕はまたなくなるだろうから、そこまで生活は変わらないはずだが、雨がちな天気の影響もあってか気分は落ち込む。

 

大学の授業の方は、セミナーはキャンパスで行われていた11月のときとは異なり、次学期は全てオンラインで行うという連絡が来た。2月末から可能であれば対面での授業も提供するとあるが、果たしてどうなるか…

結果論だが、これだけオンライン中心ということになると、パートナーのキャリア中断や子どものことを考えると、東京からオンラインで授業を受けるという選択肢もあり得たなという思いが頭をよぎる。もちろん、渡英したからこそ、限定的とはいえ、授業以外でのクラスメイトたちとの交流機会を得られたわけだし、東京にとどまっていれば生活が今以上に日本語中心だったり、時差の問題があったりしたわけなので、結局は自分の選択の中で最善を尽くすしかないわけだが。

 

オンライン教育ついでに少し考えたことが2つ。

1つ目は教育の対価としての学費。大学院に限らずだが、多くの教育機関が今回の新型コロナウィルスの影響により、オンラインで教育を提供しているが、私の知る限り、オンラインだからと言って学費を下げるというようなところはない。つまり、実体上はともかくとして、観念上は、オンラインだろうが対面だろうが提供している教育は同等だということになる。

しかし、そうすると対面で授業を提供する意義はどこにあるのだろうか。もちろん、今は一時的な措置ということで学費を維持しているのだろうが、将来的には、対面とオンラインとで学費に差をつけるということはありうるのだろうか。

いずれにせよ、現在、学生、学費を支払っている者の立場としては、オンラインでも支払っている学費相応の教育成果を得る努力が必要だなと思う。

 

2つ目は教育の機会。日本だと、オンライン教育では十分な通信回線や端末を確保できない家庭が取り残されるという方向に話がいきそうな気がするが、私としてはむしろ、教室のキャパシティという物理的な制約もなくなるし、移住することなく教育を受けられるのだから、教育の機会は拡大されるんじゃないかと感じている。

留学生だけでなく日本国内のことでも、大学進学を機に地方から上京する学生は多いし、一方で、そうした進学費用の問題で大学進学を断念する学生も一定数いるが、オンライン教育が普及すれば、そういった問題を解決できるだろうか(前述のとおり学費に差をつけるということも合わせて)。

蛇足ながら、渡英前に人に薦められて見た、京都大学人社未来形発信ユニットがyoutubeで提供しているオンライン公開講義の児玉聡准教授の「パンデミック倫理学」は面白かった。個人的には、こういったオンライン公開講義がもっと広がることを期待したい。

 

新型コロナウィルスの影響で、これから社会は大きく変わらざるを得ないだろうが、「良い」変化もあるはずなので、その変化に立ち会えることは楽しみでもある。

 

 

昨年を振り返ると、渡英直後は語学の壁から全てにおいて自信を失い、かなり委縮していた。英語の向上に努めるのはもちろんだが、今年はもっと自信を持って積極的に行動したいと思う。
同時に自分自身の拠り所が言語に偏っていたということにも気づかされた(趣味も読書ぐらいだし)。スポーツや音楽、絵画など非言語的な拠り所があれば、ショックは少なかったかもしれない。さすがに自分についてはいまさら…という気はあるが、子どもたちについては、英語教育に力を入れるというだけではなく、こういった非言語的な拠り所への興味を伸ばしてあげるというのも必要かもと思った。