子連れLSE留学記(英国大学院留学)

2020年から子連れでLSEに留学している筆者の記録

40 ロンドン生活(サービス)

夏休み中に書こうと思っていたが、いろいろあってこのタイミングに。

 

英国のサービスレベルを、日本と比較しては駄目だ、という話を渡英前からいろんなところで聞いていたので、それなりに覚悟はしてきたが、実際に生活してみると噂に違わず、という感じだ。

例えば、私たちがいま住んでいるフラットではこの1年間で2回、水道のトラブルがあった(1回目:風呂のお湯が出なくなった(水は出る)、2回目:風呂の水・湯の出が悪くなった(蛇口全開でもちょろちょろと出るだけ))。

日系の不動産仲介業者に紹介された物件で、かつ、その業者が管理している物件なので、こうしたトラブルがあったら日本語で仲介業者に連絡するだけでいいのだが、そこから工事の手配をしてもらい修理業者が来るまでににだいたい1週間かかる。

日本(東京)の感覚だと、翌日には来てくれるのを期待するので、1週間と言われるとなかなかしんどい(その間、当然、風呂は使えないし、近所に銭湯もない)。

 

街中でも、例えば、コーヒーショップが混雑していて客が列をなしていても、店員が作業をスピードアップさせる雰囲気はなく、なんなら店員同士で談笑しながら、のんびりレジ打ちしてるというのは日常風景だ。

 

印象的だったのは、夏休みの間に子どもと行ったテーマパーク(遊園地)。まず、営業時間が10時から17時までなど日本と比べると短い。そして、営業終了間際になると、帰り支度をしている従業員を園内で見かける。英国の法定労働時間は知らないが、営業時間設定が従業員の労働時間を考慮して行われているような気がする(訪問客はかなりいたので、営業時間を伸ばすと採算が取れないということではないと思う)。

そして、営業時間中も、従業員が水筒や炭酸飲料水のペットボトルを片手に仕事をしていて、訪問客の目を気にすることなく、ちょこちょこ飲んでいるのも日本ではなかなか見かけない光景だ。閉園間際の動物園のカフェテリアに至っては、従業員が10人ほど集まってお茶を飲んでいたりとかなり自由だった。

そういえば、近所のスーパーでも、制服の警察官が昼食を買いに来ていたりと、「客の目」や「市民の目」を憚るということとは無縁のようだ。少なくとも、昼食を買うために救急車がコンビニ寄っただけで「市民」に通報され、報道される社会よりは、よっぽど健全だと思う。

 

渡英前に現在は欧米に拠点を置いて仕事をされている日本人の方に、「日本は消費者として生活するのは天国、でも労働者として生活するのは地獄。逆に欧米は消費者として生活するのは不便だけど、労働者として生活するのは快適」という話を聞いたが、日本では見ない光景を英国で見て、なるほどと思った。

どっちがいいのかというのは一概に決められる話ではないけれども、普通の人は消費者として生活している時間よりも労働者として生活している時間が長い(お金を稼ぐのに比べるとお金を使う時間は一瞬)ということを考えると、いまの日本のスタイルがしんどいと思って欧米に拠点を移す人がいても不思議はない。

 

もちろん、昨今は「働き方改革」により、さまざまな場所で労働の在り方が見直され始めている。ただ、個人的に以前から気になっているのは、「働き方改革」=残業しない(させない)という一面ばかりが強調され、労働時間が減っても仕事は減らないんだから人手を増やしてくれ、あるいは、もっとみんなが効率的に仕事をしなければ仕事が終わらなくなる、という話がよく聞かれることだ。

もちろん、それが間違っているとは言わないが、少子化により、少なくとも向こう20年の労働力人口が減ることが約束されている(そして、総体として移民の受け入れに消極的な)社会で「(うちの会社の/うちの部署の)人手を増やしてくれ」という主張はどれだけ現実的なのだろう。

また、「効率的に」と言われる労働者像は、朝は子どもを保育園に送って、移動時間にメールチェック、その日の仕事の優先順位をつけ、職場に到着したら直ちに業務をこなしていく、場合によってはランチの時間も惜しみ、上から求められる仕事を全てこなし、定時に退勤して子どもを保育園に迎えに行く、みたいな「スーパーマン」のようで、なんだか息苦しい。個人として、そういったスタイルを目指すことは否定しないし、現にそれを実践されている方には頭が下がるが、そうした「スーパーマン」しかいないことが社会の前提にされると、ちょっと勘弁してと正直思う。

 

そう思うと、「働き方改革」で求められるのは、むしろ消費者の意識改革で、我々が、英国みたいなサービス水準を受け入れられるかどうかにかかっているのではないだろうか。

夜に電話して、翌日修理業者が来てくれたり、数時間単位で宅配時間を指定できる社会は、とても便利だけど、その電話口や画面の向こうには、いったいどれだけの労働者が長時間労働を強いられているのか、これまで想像が及んでいなかった。

というより、英国で暮らしてみて、いままで見て見ぬふりをしていたものを目の前に突き付けられたような気がする。

 

 

と綺麗な感じで締めたかったが、目下、洗濯機をめぐるトラブルに見舞われていて、ここしばらくは、英国のサービスは本当に耐えがたい、一刻も早く日本に帰国したいという思いが募っている。この話はトラブルが収束したら改めて記録するつもり。